2018年2月17〜19日、戸台川アイスクライミング

2018年5月2日 OB・OG山行

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実施日:2018年2月17〜19日

山域:南アルプス戸台川流域

形態:アイスクライミング

メンバー:F田(H25卒)、K峰(会外)

 

アイスアックス、モノポイントアイゼン、アイススクリューを買ったのはいつのことだったか。かつて、モノホンのアルパインクライマーになるためにはアイスクライミングも嗜んでおかないとと意気込んでいた時期があった。今もその思いはないことはないが僅かな燈のようだ。

2015年の正月、前年に山スキー用品一式買ったり、カムを1セット揃えたりと厳しい財務状況の最中、正月セール中のカモシカにふと立ち寄ってしまう。「お年玉くじ引きで30%割引が出れば…!」と勢いアイスクライミングギアを一式購入。もちろん毎度お馴染み10%割引。

その後はロクにアイスクライミングに行っていなかった。一丁前に道具だけ揃えて、宝の持ち腐れとはまさにこのことと思いつつも、そもそも、アイスクライミングにそこまで魅力を感じていなかったのだ。わざわざアイスを登らなくても面白いラインが取れるんじゃなかろうかとか、アックスとアイゼンが無いと成立しない道具ありきのスタイルには、いわゆるアルパインスタイルやトラッドクライミングがそうであるような山と一対一に対峙する真摯さというか厳しさというか、近代的な人間味が濃く、生物としての人間がそこにはいない気がするとか、要は目的が山でなくてアイスになってしまうあたりが自分に馴染まないとかなんとか、倦厭する妙な言い訳をこしらえて遠ざかっていた。

 

そんな中、現役との雪上訓練で一緒させてもらったT田さんから教えてもらったのが南アルプスのアイスだった。恐れ多くも冬壁で凄まじい記録を残してきたT田さんに、かくかくしかじか上記のようにアイスクライミングにあまり興味が向かない旨を話すと、「あのあたりなら難易度高くなくてずっと上までアイスが続くルートがあって、最後は山頂に詰め上がるよ」と教示いただいた。

「あ、それなら面白そうだや」とT田さんの指南にたやすくモチベーションが上がり、雪上訓練から戻るとすぐにしまいこんでいたギアのチェック。そろそろモノホンのアルパインクライマーになるべくいっちょ鍛えるかと、気合いを入れてルートをあれこれ調べ始めた。僕が登りたいのはアイスを辿らないと上に行けない・辿ることで上に行けるルートだったのだ。

しかしこのすぐ後、名張のワイドクラックに1日挟まっていると、肩を負傷。加えて仕事の多忙が祟ったのかギックリ背中を発症し、ダブルパンチで故障。12月中旬から2月初旬まで棒に振る。ようやく行ける状態になったのがなったのがこの戸台川であった。(現役との1月の遠見尾根には行けはしたが…

 

雪のちらつく戸台川の河原歩きをだらだらと3時間弱、丹渓山荘から北沢峠には向かわずそのまま沢筋を辿る。左岸・右岸に多数のアイスを眺めながら「五丈ノ滝」F1とF2をこなすとすぐに70mのドでかい「駒津沢」に出会う。

五丈ノ滝F1(意外と長い・F2は簡単)

奥が駒津沢、左手前が奥駒津沢

この日のうちにさらに上流に登ることも考えていたが、五丈ノ滝を登ってるあたりからひどく吹雪いてきたので、幕営地を探す。周辺をうろちょろしてみると駒津沢のすぐ先にある「奥駒津沢」の立派な氷壁の裏に見事な洞穴を発見。

戸台川本流の左岸壁から流れを落とす奥駒津沢は、戸台川に出合う所で深く穿たれルーフを形成している。その切先から水流が滴り氷を形成しているため、ルーフには美しく幅の広い氷の簾が垂れていた。ルーフ内には滲み出る水滴が層をなした水平の氷床、出入り口は一方のみで、中は吹きすさぶ風雪も入り込まない。戸台川はこの時期でも水流があるため水も汲めて退屈な水作りも不要という五つ星ホテルだった。

この素敵なホテルにすっかり魅了されてしまい、まだ少しは登れそうだったが、この日は行動終了。そそくさと夕飯を済ませ酒を飲み、合コンだかで彼女ができたというパートナーの話を愉快に聞き就寝。翌日の行動は周辺の沢を詰めて稜線に上がる案もあったが、いかんせんホテルが快適すぎるので翌日もここに幕営してアイスのトレーニングをすることにした。僕の本望としては冒頭のように稜線まで抜けるルートに意味を見出していたが、いかんせん天候が悪そうなのもあり、まず何よりもスキルアップする必要性を痛感していた。

(ちなみに途中にあった丹渓山荘(廃屋)はガラス片が散乱し小屋周辺が便所化していてなかなか厳しいものがある。

翌日の天気は曇り。稜線は風が強そうだ。ホテルからアプローチ10秒で奥駒津沢に取り付く。F1、F2の氷結具合は適度で、ラインも鮮明、かなり快適。そそくさと登りF3へ。F3は幅広で弱点をついて登ったつもりが左へ左へと嫌らしいトラバースをこなし、最後は垂直に。距離は短いが登りにくかった。

奥駒津沢F1

懸垂で降りてホテル奥駒津で一休みした後、駒津沢へ。僕に70m長さをリードする力量はとてもないのでパートナーにお願いして2ピッチともフォロー。傾斜自体はそれほどきつくなく、困難なセクションもないが、ひたすら長い。登りながら足元を振り返ると凄まじい高度感である。あまりアイスに慣れていない2人では登りきって降りるまでに3時間かかってしまった。

駒津沢F1

日没までにはまだ時間があったので、この日はさら上流に行ったところにある90mの大氷柱「一番星」を見に行く。でかすぎてアプローチ中に視界に氷柱が入ってから基部にたどり着くまでに時間が異様にかかる。豪烈なシルエットとシビアな氷の発達、みるみる進む融氷。そしてその巨大さにパートナーともどもしばらく圧倒される。「しばらくは登れそうにないなあ、、」と尻尾を巻いて、ホテル奥駒津沢にイン。

一番星(基部までまだまだ距離がある)

3日目は快晴。下山がてら右岸に注ぐ「舞姫ノ滝」を登る。余裕を持って取り付いたが、徐々に日光を浴びるF3の溶氷が激しく、フォローした僕は全身びしょ濡れに。ここのF3は傾斜もきつく今回一番難しかった。帰りの下降が空中懸垂になったり落石を誘発し易い足場だったり結構ヤラシイ。

F3・この時はまだ日が当たっておらず氷結はまずまずだが…

例年より雪の少ない甲斐駒を背に、退屈な河原歩きをしながら下山。氷はあちこちにかかっており素晴らしい環境だが、この河原歩きゆえに入山者は少ない。今回もアイスクライミング目的の入山者には遭遇しなかった。

夕飯は伊那のソースカツ丼「たけだ」。ここは質・量ともに五つ星のベストイートです。